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みんなのエッセイ

「落花昇竜」の年 鳥越九郎

椿(ツバキ)の花は、日本や中国が原産地であるそうだ。

赤や白の美しい花も、黄金色の花弁が美しさをさらに引き立てている。
椿の花言葉は、「誇り、完璧な魅力」。その中でも赤椿は「気取らない優美」。白椿は「理想の愛」だそうだ。

しかもその見事な花は、冬から春に咲く。早咲きの椿は、殺風景な冬の最中に華やかさを呼んでくれる。

椿は花ばかりでなく、昔から、樹木は硬くて均質な高級木材。しかも工芸品としても、古くなっても堅く、ツヤが出て美しく珍重されてきた。今でもハンコにまで利用されている。
不要となった木端などは、質の高い木炭として利用され、大名の手あぶりの火鉢用に使われたという。それが茶道にもつながっていく。
そして、その残った灰でさえ、日本酒の醸造に欠かせない最高の品質として評価されて来たのである。

現代の人には判らないかも知れない。
酒造りには麹菌(コウジキン)が必需品である。ところが、蒸した米に麹菌をまぜて培養させるとやがて発酵して酸性の酒になる。すると、酸性に強い有害菌類が大喜びで繁殖してしまう。酒が腐ってしまったり、バイキンで飲んだ人は体をこわしてしまうのだ。
ところが、驚くべき事実がある。室町時代の頃から、麹造りの際に木灰を添加することで、麹菌を守る手法が使われて来たのである。

麹菌はアルカリ性には強く、むしろ成長を促進させる。有害菌類はアルカリ性には弱く、死滅してしまう。正しく防腐剤の役目である。

これが杜氏(トウジ)の考え出した秘伝である。しかも、木灰の中には多くのミネラル、特にカリウムやリンが含まれており、麹菌の生長ばかりか、酒を飲む人の健康にも欠かせない。
この製法を、あくもち(灰持)酒というそうだ。

こうして、濁り酒や黒い酒から透明で黄金色の清酒が生まれたのである。その木炭の最高品質といわれるものが、椿の木灰なのである。

だが、椿の効用はこんなものだけではないのである。
もちろん、種子から絞った油は食用油として珍重されたばかりか、女性の整髪にも大いに使われたツバキ油である。椿の葉っぱのツヤは見事だが、この葉のエキスは止血剤としても利用されて来た。
椿は何から何まで捨てる部分もなく、活用されて来たのである。

その椿の花が美しく咲き乱れている最中に、突然丸ごと前振れもなく、ハラリと落ちる。明治時代になってから、それを「生命」と考え、入院の御見舞には不吉だとか、武士の首が落とされる様子に似ていると、嫌がられたとも言われるようになった。
しかし、それは勝手な思い過ごしでもあろう。

美しい花が萎れて、見るも無残な姿を見せつけるのを嫌がって、美しいさなかに自ら生命を絶っているようにも見える。
花というものは、はかない命と見ている人もいるようだが、さにあらず。花の使命は、美しい姿を見せつけ、その美しさに見せられた蝶や蜂や虫などにミツを飲ませて、その勢いで、蝶や虫の足や羽の風で花粉をメシベに附けてもらうのだ。
そして、受粉が終わると実が大きくなり、花はその役割を終わらせ、種ができる前に自ら萎れて落花してしまうのだ。しかも落ちた花びらは、腐敗して樹や実が大きくなるよう、肥料になってまで貢献するのである。

一方、中国では帝王のシンボルとしてあがめられ、偉大な霊獣として神話となってあがめられてきた「竜(りゅう)」。
大きな滝つぼや地中に棲むとされるが、日本では旱ばつの際、雨乞いの祈りを捧げると、池や滝つぼから突如滝をかけ上がり、雷雨や嵐を呼び竜巻までおこして天空に上がり自由自在に飛びまわるという。これが、今年のシンボルの辰年。『竜』という漢字も使われているが、『龍』よりも前から中国では使われていたようだ。
坂本竜馬も、天空を駆け巡る前に残念ながら落命してしまったが、命名の意味もよく判る。

竜は獰猛で怖い顔をした絵も多いが、その迫力があればこそ多くの改革も果たせるのである。にっちもサッチもいかなくなったこの世の中に雷雨を呼び、嵐を起こし、竜巻ですべてを破壊しても、また新しい世界が始まるのである。昨年の地震も竜の仕業かもしれない。

もっと言えば、華やかに咲き誇った椿や、銘木と言われた被災地の松でさえ昇竜の時のはげしい風雨に耐え抜き、竜巻や津波にあっても生き延びようと、落花しても枝が折れてもがんばるのである。

我々人間も竜の如く強靭に、そして落ちた花の如くいさぎよさと華やかさが欲しいものだ。

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